臨床実習教官として1番印象に残ってるケース/落ちに落ちていた学生

昔、理学療法士として臨床実習の教官(スーパーバイザー)をやっていた。

私の学生時代の経験では、二度とスーパーバイザーの顔など見たくないと思ったものでした。

多くの学生も同じように大差ないと思います。

ところが私の所では実習が終わっても実習生が集まってくれました。週末など10人以上が来てくれたりしました。

多くの実習で学生指導をし、みなそれぞれ思い出深いのですが、特に思い出深い実習がありました。

実習前に、今回来る学生の情報を学校の教員が報告に来てくれるのですが、今回の学生は学校を8割がた辞めるつもりでおそらく最後の実習になると思いますとのことだった。

それを聞いた私は、従来の業務に加え実習指導をしてるのに、そんな学生を預けられても迷惑だと思いました。

辞める気満々の田中君(仮名)と、他の学校の同学年の佐藤君(仮名)の二人が今回の学生です。佐藤君は学校一の成績で、教員の評価も何の心配も無い学生ですとのこと。

いよいよ実習が始まりました。田中君は右手にギプスをしていました。
どうしたのか聞くとイライラして壁を殴ったら折れたというのです。

まったく対照的な二人でした。

数日後二人は見学をしていました。すると田中君は真っ青な顔でなにやら苦しそうなのです。

聞くと2週間ほど便秘だというではありませんか。『こいつやっぱり相当病んでるぞ』と思い、すぐに内科に連絡し受診させました。すぐに浣腸をしてトイレに行かせましたが、ものは出ませんでした。

実習の方針が決まりました!
田中君にこう伝えました。
「田中君、君の今回の実習の目標はウンコを出す事や!」

佐藤君にも伝えました。
「佐藤君、君は学びたいこともあったかもしれんが、これも何かの縁や。田中君につきあったってくれ!」

『辞めたいとかイライラしたりするのは色々考えるからや。何も考えられないくらい精も魂も尽きさせてやろう!』

それから一日中二人に運動させました。腹筋や背筋や腕立て伏せ、果ては相撲などをバテルまでやらせました。毎日やらせました。本当にバテルまで体育会系の部活動くらいやりました。

数日が過ぎた頃、田中君の様子が変わりました。あからさまに変わりました。変わった瞬間がはっきりと分かりました。

「ヒャッホ~!」と叫んだのです。そして跳ね回りました。吹っ切れたように表情は明るくなりました。

彼のスイッチが入った瞬間でした。

それからしばらくして実習が終了しました。
「田中君。この時期に他の学生がやるべき実習を君はやってないから、良い評価は与えられない。」私がこう言うと田中君は、それはもう分かっていますと言った。

田中君の評価は当然最低のものです。

しかしそれは私が勝手に学校の決めた実習目標を変えた訳で、責任は私にもあります。もう学校は辞めるだろうけど、最後の実習はせめて合格をあげようと思いました。

実習が終わって数日後、田中君の担任がやってきて、彼はすっかり変わり、学校も続けると言ったそうです。今まで何を言っても何をやっても上手くいかず彼には手を焼いていたのに、先生はいったい田中君にどういう指導をしたのですか?と聞かれた。

本当のことは言えなかった。ですから「いや・・・私はべつに・・・」としか答えていない。

その後田中君は理学療法士になり、他県に勤め頑張っているようです。

そして佐藤君は私の職場に職員として入職しました。

田中君・・・今でも応援してるぞ!

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